一杯のコーヒーに込められた、ローカルとグローバルの楽しさ。 “コーヒーを通して考える、世界の環境や課題への取り組みかた”とは? ―ONIBUS COFFEE
東京都内の6店舗をはじめ、ベトナム・台湾など海外にも合計10店舗を持つ人気ロースタリーカフェ「ONIBUS COFFEE」。目黒・八雲店には焙煎所も併設し、世界中から厳選・ピックアップされたコーヒーを日々、お客さまへ届けています。
今回は、スペシャリティコーヒー(※スペシャルティコーヒーとも呼称)としての品質とサステナビリティを大切にするONIBUS COFFEEから見た、「これまで」と「これから」のお話。そして、コーヒーを通して考える環境への関わりかた・考えかたを、代表の坂尾篤史さんと、販売に関わる橋本裕太さんに語っていただきました。
東京の街角の「いい雰囲気」を味わえるような、おいしくて親密なひとときを
ONIBUS COFFEE は2012年に東京・世田谷に店舗をオープンして以来、スペシャルティコーヒーやシングルオリジンなど、日本における、いわゆる「サードウェーブコーヒー」のブームを牽引してきた存在です。そんなコーヒー文化の繋ぎ手として、現在では海外にも店舗を持ち、中目黒店は海外のメディアでも数多く紹介され、日々多くのインバウンドのお客様で賑わいます。
この日は、目黒・八雲店に伺いました。八雲店は住宅街の中にある、ゆったりとした時間の流れるロースタリー兼カフェです。表通りからお店に近づくと、コーヒーの焙煎香がほんのりと漂い、気分がほころびます。
近所の常連さんや、週末は近所の大きな公園へのお散歩がてらにというお客様も多い、日常の中でのひと休みにも、気分転換にもぴったりな立地です。
また、代表の坂尾篤史さんは、ONIBUS COFFEE八雲店から1駅お隣のFOOD&COMPANY 学芸大学店にも普段から立ち寄り、ご利用してくださる“常連さん”でもあります。ONIBUS COFFEEのどの店舗にも、ずっと前からよく足を運んでいたお店のような、東京の中の“日常”をいつでもおいしく味わえるような、何気ないローカルな親密さが漂います。そんなコーヒーやお店の成り立ちには、どういった思いがあるのでしょうか。
坂尾:ONIBUS COFFEEは、今年で13年目に入りました。始めた頃は東日本大震災後の直後で、食に関しても透明性が大切にされた時代。同時に、ポートランドやアメリカ西海岸の影響でスモールビジネスにも注目が集まっていた、そんなタイミングでした。『青果ミコト屋』や『POMPONCAKES』、そしてオープン以来お付き合いのあるFOOD&COMPANYも、2013年に開業ですよね。そのように、気持ちを同じくする仲間が続々と立ち上がってきた頃でした。どのお店も『オーナーが近くにいる』ということが感じられる場所ばかりです。
環境問題に向き合う「当事者」としての思いを、コーヒーを通じて届けたい
ONIBUS COFFEEが扱うのは、「スペシャリティコーヒー」と呼ばれるコーヒー豆。豆の品質だけでなく、栽培や流通に至るまでのトレーサビリティも評価の基準になるスペシャリティコーヒーの世界において、「サステナビリティやトレーサビリティは欠かせない重要課題です」とお二人は語ります。
橋本:Neighbors Food Marketでご紹介している商品の中で一番歴史のあるアイテムは、やっぱり『ONIBUS BLEND』です。もちろん作物なので、その年ごとに出来具合や農園も変わってはいますが、創業当初から味の方向性としては一番、ベーシックなONIBUS COFFEEらしさが出ています。
坂尾:パッケージにも僕たちの思いを行き届かせたいと思っていて、コーヒーを入れる白い袋には、紙を主体にした生分解性のものを使っています。よく見るアルミパックと比べて、光が通りやすい点はありますが、それでもできることから環境への配慮を優先したいと思っています。
現在、コーヒーの世界では「2050年問題」という喫緊の問題が、しばしば話題に挙げられます。それは、温暖化をはじめとした気候変動により、2050年までに、コーヒーの多くを占めるアラビカ豆が栽培できる土地が半分以下に減ってしまう…という危機的な予測のこと。
坂尾:コーヒーだけに関わらずの話ですが、近年、本当に作物の価格が急騰していますよね。コーヒーも同じです。ここ2年ぐらいの、コーヒー豆の価格急騰の原因は、気候変動による不作ということがわかっていて。コーヒーという商品を扱っていく上で、環境の問題を自分たちが“当事者”として考えていく必要があると考えています。
自分の持っているもので、大切な生産者の社会課題を解決できたら
そんな中、ONIBUS COFFEEとして取り組んでいるのが生産国・生産農園との買い付けだけではない、直接の関わりあいです。
坂尾:僕以外にも、何人かスタッフに買い付けメンバーがいて、担当の国や地域の農園に長年直接出向いています。豆の出来上がりだけでなく、生産する農場の環境や生産に関わる人たちの教育の状況も確認して、投資をしたり、アドバイスを行っています。
僕はルワンダをこの10年ぐらい、コロナで渡航できなかった期間以外は毎年訪れていて、ここ数年は日本の有機の堆肥づくりを共有・サポートしています。ルワンダにはオーガニックの堆肥を作るメソッドがなかったのですが、今はその堆肥でコーヒーをつくってもらっていて。2024年からは、製品としても出来上がってきました。ルワンダの堆肥づくりも、現地に何年も長く行くことで見えてきた課題です。
自分たちも興味のあることで課題を解決できたと思いました。彼らの環境が循環していいものを作れるようになるというのは、ここ10年ぐらいの取り組みがうまくマッチした1つの成果かなと思って、嬉しいですね。
現在は、日本でほとんどすべての食品を有機で購入している人は、およそ10%と言われています。
農林水産省の調べによると、国別にみた1人あたりの有機食品消費額は日本で年間約1,400円と言われていますが、同じ年のアメリカでは1人あたり約16,000円と、大きな開きがあることがわかっています。
坂尾:それこそ10年以上前から言われていたのは、『日本の有機の市場は、食全体の市場の中でたった3%ぐらいしかない』というような話でした。今はもっと割合は上がっていると思うのですが、日本の有機農業への理解がなかなか進まないのはとても課題に考えています。課題感はあるけど、そこに関して力を入れて取り組もうというよりは、FOOD&COMPANYをはじめ、環境のことを少しでも考えている会社のものがもっと日常で使われるような社会になったらいいなと思って取り組んでいます。
街のおいしいコーヒースタンドから「世界のローカルが行き交う発信地」に
買い付け以外にも、海外にも店舗を構える会社として見えてきたことも多いそうです。
坂尾:有機への考え方は、アジアの他の国の方が敏感かもしれないですね。台湾は林や森を持っている人も多くて、やっぱり有機のお茶へのこだわりが強かったり。
ベトナムも、プラスチックのストローを使っていたら『別の素材のストローにした方がいいよ』と一般のお客様から自然に言われることが多かったです。国によって違いはあっても、どこか共通の、大切にしていることがあるんだなと思いましたね。
初めに海外にお店を出した一番最初の国はベトナムですが、タイなどでは自国でもコーヒーを作っているので、例えば将来、タイの支店を通じて、タイの良いクオリティのコーヒー豆を日本でも紹介したりと、関わりを少しずつ増やしていきたいです。
店舗を運営していく中では、そういうグローバルでのスタッフ同士のコミュニケーション・関わり合いを増やせるような仕組みを作っていけたら面白いなと思っています。研修などで国が違う人がお互いに行ったり来たりみたいなことが、もう少しスムーズにできたり、そこに魅力を感じて入ってくる人も増えたりしたら楽しいですね。
自然な出会いを大切にしながら「続ける」ことが、熱量を絶やさない秘訣。
最後に、Neighbors Food Marketでの展望や、ONIBUS COFFEE自体の今後の展開について伺いました。
坂尾:ここ(八雲店)は東京での5店舗目になるのですが、基本的には世田谷・奥沢や中目黒など、渋谷より西のエリアにご縁があって。海外進出はベトナムが最初でしたが、それも間に入ってくれる人がいて…という広がり方をしていました。なので、なにか狙いを定めてマーケティングしていこうという感じではなくて、出会いの中でお仕事に発展していくというケースが多いんです。
アメリカでお店を開きたいかと問われると、向こうは向こうの良さとか、いいお店が既にあると思っていて。そこに挑んでいこうというのは、自分たちらしくないかなとも思っていますね。海外からの観光のかたも、日本に何度か来て『行くならあそこだよ』みたいに言ってもらえるような感じが、やっぱり理想だなと思っています。だからこそ、長くやっていくということが大事なんだなとすごく感じていますね。
海外のお客さまにも、日頃から来ているかたにも等しく、うちの味を出せたらいいですし、Neighbors Food Marketでのお取引でも、その味と温度感が伝えられたらいいなと思っています。
橋本:思いが一緒の人たちと広がって繋がれたらいいですよね。オンライン上の顔が見えないやり取りは、どういった人たちがどういった思いで僕らのことを選んでくれているのかとか、僕らもどういったお店に届けているのかみたいなことが、店舗でのコミュニケーションのように感じられる何かがあるといいなと思っています。FOOD&COMPANYの店舗にも感じられる、あの雰囲気をNeighbors Food Marketで伝えられたら嬉しいですね。
橋本裕太さん(左)、坂尾篤史さん(右)
ONIBUS COFFEEの「ONIBUS」とは、コーヒーの一大産地であるブラジルで使われるポルトガル語で「万人のために」という語源から、現在では「公共バス」を意味する言葉なのだそう。ロゴデザインにも、バスの意匠が込められています。一時的な高い熱量も大事だけれど、長い時間をかけて引き出す熱量にも一緒に寄り添って、共感し、関わり合い続けていただけたら。
お二人の話を伺って、そのロゴや運営スタイルに「観光地としても、日々を暮らす場所としても魅力的な“東京というローカル”」から発信する人々ならではの、さりげなさの中にも芯のあるしなやかさを感じました。おいしさと一緒に、”世界”への芯の通った取り組み方を伝えるONIBUS COFFEEのコーヒー豆。ぜひ、お手にとっていただけたら幸いです!