
昭和のお豆腐屋さんのノスタルジーを引き継ぎ、アップデートするソイミルク。 Peace Soy Milkは「いま必要とされる、大豆のかたち」の1つの答え。 ―Peace 石橋和典さん
やわらかな甘味と大豆の香りがふわりと鼻に抜ける飲み口で、心まで軽くなるような「Peace Soy Milk」。人気作家の塩川いづみさんによるイラストレーションが目を惹くパッケージは、これまでの豆乳のイメージとはまた違った、思わず手に取りたくなるような洗練された雰囲気です。台湾の早餐(朝ご飯)を出す飲食店や、カフェなどとのコラボレートなども積極的に行うPeace Soy Milkがつなぐ食の未来や商品へのこだわり、フィロソフィーを、Peace の発起人である石橋和典さんにお伺いしました。
町の豆腐屋さんの「職人技」をデータ化して、昔ながらの豆乳づくりを実現。
埼玉県の閑静な住宅街の中にある、Peace Soy Milk(以下、Peace)の工場。本日はちょうど生産がお休みの日ということもあり、石橋さんにじっくりとその仕組みについて説明していただきました。
例えば、豆腐をつくる場合、厳選した大豆を水に漬け、細かく粉砕して加熱してから絞り、豆乳とおからに分け、「にがり」を加えて固める…というひと通りの作業は、すべての工程で職人さんによる「感覚」で成り立っていた部分が多くありました。
「大豆も自然の恵みによるものなので、毎年、含んでいる水分や味の濃さなど、出来具合が違います。職人さんは大豆を割って、触ることでそのバラつきがわかるのだそうです。そして、加水する量や豆を砕く時の粗さ、撹拌する時の具合などまで、職人さんの感覚で仕上げていた。お豆腐屋さんによって味が違うのは、使う豆の選定から仕上げまで、それぞれの職人さんに経験と独自の『レシピ』があったからなんです。
Peaceでは、その職人さんの『感覚』や『レシピ』をデータ化することで、昔ながらの豆腐づくりを活かした豆乳づくりをしています。」
工場の機械には、その職人さんの感覚やレシピをさまざまな項目に分け、細かくインプットしています。
また、工場の作業台にあるのは、大豆の水分計。大豆の給水を確認するのに使用することで、ここでも、職人さんの目方に頼っていた部分をデータ化しているのだそうです。
システム化することで、クラフト感を大切にした、フレッシュな豆乳に
Peaceの工場では、大豆を水に漬けてから豆乳に加工し、パッケージに詰めるまでをワンストップで行える機械をカスタマイズして導入。これまで、人がその都度フタを開けて出来具合を見ていた工程を省くことで新鮮さを保ち、空気に触れさせずにパッケージに充填しています。
そのフレッシュさは、加熱時に90℃まで上がった大豆を豆乳にして、パッケージにする時まで70℃まで保てるほど!その後冷却を経て、完成となります。
「空気に触れさせないことで、これまでは2週間程度だった賞味期限を1ヶ月に伸ばすことができました。そのため、今までは工場の近郊でしか販売できなかった無調整豆乳が全国のお店にお届けしやすくなっています。
また、一般的な豆乳づくりの工程では、砕いた豆を加熱する時にどうしても起きてしまう泡立ちを抑えるために消泡剤を入れていましたが、このシステムでは加圧することで、添加物を加えずに豆乳にすることができました。」
人の感覚だけに頼らず、それぞれの工程を5〜10もの数値でインプットして「ブレる」要素を減らし、味わいや香り、栄養価までコントロールできるというシステム。豆乳の分野ではとても珍しい試みですが、実はコーヒーやワイン、クラフトビールでは当たり前だったものなのだそうです。
「統計によると、20年前には全国に1万4千店ほどあった町のお豆腐屋さんは、今では3分の1の5千店程度に減ってしまっているのだそうです。後継者がいなかったり、原料の高騰化や大手メーカーとの競合もあって、とても危機的な状況です。町のお豆腐屋さんならではのおいしさ・新鮮さを、他の高付加価値のある飲料と同じようにデータ化することで、豆腐や大豆の価値やクオリティ、また、関わる人の賃金も上がればいいなという思いがあります。」
豆乳嫌いの人も惚れ込む、Peace Soy Milkの「豊かなおいしさの秘密」とは?
また、使用する大豆も厳選した素材を使用。Peace Soy Milkに使用しているのは、「タマホマレ」という糖質含量・タンパク質量が特に高く、甘みやコクが強い品種です。
「Peaceを立ち上げる時に、豆腐屋で仕込みの勉強をさせてもらったことがあります。そこでたまたま出会ったタマホマレの独特の香りにピンときて。『この香りなら、豆乳を更に楽しんでもらえるのでは?』と思い、開発しました。
また、大豆を搾った際の副産物であるおからは産業廃棄物として豆腐業界の課題になっていますがポリフェノールも多く含み、栄養満点の素材。だから、このおからを絞り直してお風呂に入れれば、美肌効果抜群の豆乳風呂にもなるし、おからをお菓子屋さんといっしょにグラノーラにしたコラボ商品も出しています。和紙に混ぜたりしてもいいなと思っています。そういったコラボレーションは、これからもぜひやっていきたいですね。」
Peace Soy Milkのおいしさの秘訣は、更にこの先の工程にもありました。
豆腐の加工では通常行うことがない、口当たりをよくする処理を行っています。
これにより、無調整豆乳特有の舌触り(ざらざらとした雑味)が驚くほどなめらかになり、サラッと鼻から香りが抜けるような味わいに!
「豆乳が苦手だったけれど、Peace Soy Milkは大好き」というお客さまもできるほど、飲み物としての完成度が上がったのだそうです。
Peaceが豆乳づくりを選んだ理由は、パッケージにも共通する「Peace of mind」の気持ちから
では、牛乳の代替飲料はさまざまある中で、なぜ石橋さんはソイミルク(豆乳)をつくることを志したのでしょうか?
「僕自身は元々、お豆腐が好きではありました。でもそれだけではなく、僕が子どもの頃は町にリヤカーを引いて売りにくるお豆腐屋さんが来て、親に鍋を持たされてお使いを頼まれたり…。僕は幼心にそれが大好きで、僕の幼い時の昭和の思い出として心に残っています。
その頃のことを思い出すと、お豆腐ひとつにたくさんのコミュニケーションが詰まっていた“心の余裕”がすごくあった時代だな、と感じて。
これから100年、200年のなかで、ライフスタイルや食はどんどん変わっていきます。その中で、『今の形で必要とされる大豆を使った食べ方』がその時、その時で進化・提案できればいいと思っています。
今はみんな忙しいし、時間も、心の余裕も無くなってきていると思っています。
これはQOLにも食文化全体にも関わる問題だし、どうやってこの農家さん、豆腐屋さん、家庭のコミュニケーションを繋いでいけるかと考えました。
そこで感じたのが、『Peace of mind(心の平安・安らぎ)』という気持ちをもたらすものが大豆でつくれたらいいのでは、ということでした。なので、実はPeace Soy MilkのPeaceは『Peace of mind』の意匠を込めて付けた名前なんです。」
「みんなで楽しく、おいしく」を実現する、Peace Soy Milkのパッケージについて。
石橋さんは「決して、ヴィーガンやアレルギー対応が目標ではないんです」とも話してくださいました。
「僕自身は、食については楽しく、おいしくがモットーです。みんなで楽しくおいしく、正しく食を大切にするには?と考えた時に、結果としてヴィーガン、アレルギーのかたでも楽しく安心して食べられるのが一番だなと思っています。」
そんなPeace Soy Milkを飾る、作家の塩川いづみさんによる女性のイラストレーションにも、素敵な想いがこもっていました。
「本当だったら、誰もがいろんなことを1つ1つ足を運んで、目で選んで…と、納得の行く選択をしたいと思っているけれど、時間や心の余裕がない現代ではインスタントに済ませてしまうことが多いですよね。
『Peace Soy Milkは、忙しい中でも、良い食を通じて充実感を取り戻して欲しいという気持ちを込めて作っています』と塩川いづみさんにお話をしたら、とても共感してもらえて、イラストを制作していただきました。
「この顔は、どんな表情に見えますか? なんとも言えない顔ですよね。例えばモナリザのような、微笑んでいるのか、何を考えているのかわからないような絶妙な表情で。見る人の気持ち次第に見える表情だと思うんですね。
見た人自身にとって、もし、この顔が疲れて見えたら『少しゆっくりしよう』とか、この顔と目が合ったら休憩してほしい、スローダウンして、Peace of mindな気持ちを取り戻してほしいなと。
パッケージの表情を見て、そしてPeace Soy Milkを味わって『生活の中で無になる体験』をしてもらえたらいいなと思って、イラストを使わせてもらっています(石橋さん)。」
Neighborsでのコミュニケーションを通じて、「豆乳×食」の可能性を広げていきたい
インタビューの最後には、石橋さんに特別にPeace Soy Milkとお料理や飲物とのマリアージュと、Neighbors Food Marketでのお取引にどんなことを期待するかを伺いました。
「豆乳というのは面白くて、『製品だけど原料でもある』という性質があります。
だから、いろんなブランドや企業さんとコラボしやすいんです。
もちろん、にがりを入れれば分離して豆腐になります。そういう、分離などの変化する部分を『劣化』ではなく、調理の工程での『変化』としてポジティブに受け取ってもらえたらいいなと思っています。
飲み物としてチャイやジンジャーシロップ、クラフトコーラと混ぜてもすごくおいしいんですが、例えば凝固させて味を調整すれば、とろろを使わないとろろご飯ができたり…。そういう、和・洋・中どんなジャンルのシェフでも、バーテンダーやバリスタでも…発想次第で進化していけるポテンシャルがあると思っています。」
「Peaceはまだ始めたばかりのプロジェクトで、納品は僕がバイクで行ったりもしています。でもそういった直接のコミュニケーションから生まれるものもとても多いと感じています。Neighbors Food Marketでは、2024年6月に行われた商談会にも参加して、生産者・バイヤーさん双方のすごく良い熱量に触れることができました。
新規のバイヤーさんとの出会いも、もちろん期待しています。
Neighbors Food Market経由のコラボレートのお声がけもお待ちしています。
商談会で感じたような、アナログなコミュニケーションの良さをオンライン上でも感じられるプラットフォームになってほしいなと、そういった『人間臭さ』みたいなものが感じられるといいな、と期待しています。」